<p> スリランカ経済は、紛争の終結による復興需要や経済活動の活性化等によって、2012年に過去最高となる9.1%の経済成長を達成した。2016年4.5%、2017年3.6%、2018年3.3%と持続的な経済成長を維持し、2018年の観光客数は233万人に達したが、2019年の経済成長率は同年に発生した連続爆破テロ事件等の影響もあり、2.3%にとどまった。2020年は新型コロナウイルス感染症拡大による度重なる外出禁止令の発令による経済活動の停滞や観光客の大幅な減少(前年比73.5%減)、海外労働者送金の減少等により、3.6%のマイナス成長となった。2021年には反動で3.7%成長となったものの観光客数は伸び悩み、前年比62%減の19万人にとどまった。慢性的な貿易赤字及び財政赤字を背景として外貨流出が続く中、外貨流出防止を狙いとした輸入規制の導入により、食料・燃料等の生活必需品の不足と物価上昇が急激に進行した。2022年3月に中央銀行が変動相場制への移行を発表して以降、ルピー安が急激に進行したことで輸入品価格の上昇に拍車がかかり、2022年4月の全国消費者物価指数は前年同月比で33.8%(食品は45.1%、非食品は23.9%)で現行の統計基準において過去最高となった。2022年4月末時点の外貨準備高は約16億ドルで1か月分の輸入額にも満たない水準となり、4月12日には、スリランカ財務省がIMFによる経済調整プログラムに沿った債務再編が行われるまでの間、対外債務の支払いを一時的に停止する措置を発表するに至った。スリランカ政府はIMFとの間で協議を開始・継続中であり、インフレ・食料・燃料等の必需品不足、債務整理、財政改革、産業基盤強化など課題が山積している。</p><p> スリランカは、2009年の国内紛争終了後、着実に経済成長を遂げる一方、更なる成長を続けていくための産業高度化の遅れとそれに付随する労働市場における需給のミスマッチ、運輸や電力などの経済基盤の未整備問題や、地方部における不十分な社会サービス、地理的な影響による自然災害の発生といった課題を抱える。同時に、約26年にわたる国内紛争の影響により、北部や東部を中心に基礎インフラが荒廃するなど、開発が遅れている地域がある。スリランカへの支援を通じて、同国が抱える課題の解決と更なる経済成長を促すと共に、本邦企業の活動環境の向上にも資する支援を行うことで、両国間経済関係の一層の発展を促し、友好関係の更なる発展を目指すことができる。また、紛争後の同国の国民和解に向けた取組と経済・社会発展を促し、南アジア地域全体の民主主義の定着と安定に大きく寄与すると共に、海上輸送路の安定に貢献することができる。</p><p> 人口2,000万人強のスリランカが現在、経済危機に瀕している。直接の契機は、新型コロナ禍で外国人観光客の来訪が止まったことにある。しかし、問題の根幹には、長年続く赤字体質の国家財政、貿易構造に由来する貿易収支赤字がある。これらマクロ経済の構造上の問題は、長年放置されてきた。それが表面化した結果といえる。スリランカ経済が持ち直すには外部からの支援が必要ながら、それは地政学的な環境変化にもつながる可能性がある。</p><p> スリランカ経済は、2021年は3.7%成長と、前年の3.6%減から回復の動きをみせた(2022年4月8日付ビジネス短信参照)。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、2020年の成長率は2001年以来のマイナス成長と大幅に落ち込んでいた。その反動増に加えて、経済活動の正常化やワクチン接種の進展が回復に寄与した。2021年の成長率は、新型コロナ前の2015年から5年間の平均成長率3.7%と同じ伸びだった。</p><p> また、外国からの観光客動向は、スリランカ経済を左右する。政府は観光産業を最大の有望産業とし、主要な外貨獲得産業とみている。スリランカ観光開発局(SLTDA)が観光動向をまとめた報告書(24.91MB)によると、2019年のGDPへの寄与は4.3%。40万2,607人の雇用を生み出したとする。外国人観光客の動向が経済成長の鍵を握る。しかし、その入国者数は、新型コロナの影響から大きく減少した。2021年は、2019年比89.8%減の19万4,495人と激減した。本格的回復が見込みにくい現状は、今後の成長率の先行きを不透明なものにしている。<br></p>