<p>フィリピンは ASEAN10 か国の中で面積は 6番目の大きさであるにも関わらず、人口は 1 億人を超えておりインドネシアの次に人口が多い国です。労働年齢の人口が豊富であることも投資先としての魅力であり、名目GDPも人口と高い経済成長率に後押されASEAN内で5位です。また、人口の増加傾向が続きその国民が高い英語運用能力を持つフィリピンは、ASEAN において相対的な優位性を持ちます。</p><p>フィリピンの GDP は次の図表から読み取れるように、民間支出が大きな割合を占めています。これは、海外出稼ぎ労働者からの送金で支えられており、ペソの為替レートの影響を大きく受けます。ドゥテルテ大統領によるインフラ関連予算は近年増加しているものの、フィリピン政府は従来から財政規律を維持する傾向にあり、結果として政府支出が低調となっています。これには外国投資家からの信頼向上等のメリットと、経済成長を加速させるために必要なインフラ整備の遅れ等のデメリットの両面を持ちます。なお、フィリピンは国としてインフラ整備に関して外国の援助やPPPによる民間資金の活用に積極的であり、関連する法制度も整備されつつあります。フィリピン経済は、1960~1990年代にかけて長期低迷に陥っていたが、近年は好調であり、2012年以降の経済成長率はASEAN主要国のなかでもトップクラスです。需要面で景気拡大を牽引しているのは個人消費であり、それを支えているのが、在外フィリピン人労働者(OFW)からの送金です。個人消費の好調を支える要因として、ペソ高の影響も見逃せません。このペソ高の背景には、国際金融界のアキノ政権への信認の高さがあります。2010年に就任したアキノ大統領は、汚職の撲滅や財政健全化などの公約を実行に移し、国民の高い支持を得ています。</p><p>フィリピンは所得格差が大きく、所得格差縮小の糸口もつかめない状況です。また、フィリピンは、近隣諸国に比べて、海外からの製造業への直接投資流入が少ないため、雇用創出が不十分で失業率が高く、それが原因で1000万人ものOFWが海外で働かざるを得ないという構図になっています。フィリピンへの直接投資が少ない理由は、政治が不安定で治安が悪いというネガティブなイメージが日本企業をはじめとする外国投資家の間で定着してしまったためです。フィリピンは、ASEAN第2位の人口と国民の英語運用能力の高さという強みがあり、投資する魅力を備えた国です。今後、フィリピンへの直接投資が拡大するには、信頼度の高い安定した政治を中長期的に持続できるかどうかが大きなカギであり、その意味で、2016年の次期大統領選挙でどのような政権ができるのかが注目されます。</p><p>フィリピンは、実体経済面だけでなく、物価や財政の面でも健全さを維持している。最近のインフレ率は中銀のターゲットレンジ(4.0%±1.0%)に収まっており、安定的に推移している。フィリピンの財政赤字・公的債務残高の対GDP比率は近隣諸国に比べて低く、財政規律も保たれている。フィリピン統計庁(PSA)は1月27日、2021年の実質GDP成長率を5.6%と発表しました。政府が事前に予想していた5~5.5%を上回りました。フィリピンでは、新型コロナウイルス感染拡大や、感染を防ぐために導入した厳格な移動・経済制限措置で、2020年の実質GDP成長率はマイナス9.6%でした。これに対して、2021年から感染リスクが高いエリアに絞って経済活動などを制限する対策へ移行していました。国家経済開発庁(NEDA)は、このリスク対策が2021年の安定的な経済成長につながったとみています。</p><p>2021年通年の成長率について需要項目別にみると、大きなシェアを占める民間最終消費支出は4.2%(2020年はマイナス7.9%)とプラス成長に転じました。国内総固定資本形成の成長率は19.0%(同マイナス34.4%)で、特に改善がみられました。産業別では、鉱工業が8.2%、サービス業が5.3%とプラス成長だが、農林水産業はマイナス0.3%でした。鉱工業のうち、建設業は9.8%(2020年はマイナス25.7%)と大きな成長を見せました。サービス業では、医療福祉が15.0%(同マイナス3.8%)、情報通信が9.1%(同5.0%)、教育が8.0%(同マイナス10.8%)でした。特に情報通信は2020年と2021年を通じて高い成長率を維持しています。新型コロナ禍を経て、デジタル関連分野の産業の成長が著しい状況にあります。</p><p>NEDAは、農林水産業が2021年にマイナス成長だった理由として、アフリカ豚熱(ASF)や超大型の台風が同産業の生産面にダメージと与えたと分析しています。NEDAは2021年の経済成長率について「フィリピン経済が適切な経済回復の経路をたどっている」との認識を示します。その上で、2022年内に経済水準が新型コロナ禍前に戻るとともに、高中所得国(注)になる見込みと発表しました。政府は2022年の経済成長率を7~9%と予測しています。</p>